ほくほく街道 - 老婦人の夏 ver.

 小春日和やインディアンサマーのように、異なる季節で形容するのが人類に共通した詩情なのだろう。
 太陽が照り、北風が吹いている。
 ポリコレ的に「インディアン」はアウトかもしれない。と、己の思索へツッコミたくなるけど、つないだ手は温かい。
『またくだらないこと考えてたでしょ?』
 会話するには、どうしたって手を離さなくちゃならなくて辛い。
『くだらないこと考えるのが人間ですよ』
 そして、また手をつなぐ。
 難しいことを難しくなく言うのは難しく、適切な言葉が見当たらずにまごつく。どんなにITが進歩しても、簡単に「適切」は見つからない。
 日向にバス停が見える。眩い。
 不意に、亡くなった祖父と最期に手をつないだ記憶が蘇る。
 過剰にエモくて、自分がたまらなく気持ち悪い
「元気でいてね」
 離れた手と、久々に聞いた声がそう告げる。
 乗降口が隔てる。
 もうつながらない手
『うん。元気で』
 言葉は見えたハズなのに、答えは見えない。聞こえない。昼下がりの幹線道路は、なによりも逞しい。
 出発のクラクションが、雑多な音に融けて消える。
 さよなら。大切な人。
 永いが、しばしの別れだ。

超短編 500文字の心臓
第185回競作「ほくほく街道」参加作

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