水素

 創作する時間が無くなるのは仕方がないと思っていた。悪阻が来て、体もホルモンもバランスを崩し、言い方は悪いけど、膣から吐き出した途端に毎日が狂乱で、浮かぼうとする「あぶく」を捉えることができなかった。
 ふたりで作ったひとりの子どもは、何故かひとりで育てる時間が多くなり、尚更が次々と積み上がる。
 不満の抱え方を誤っていると気付いたのは何時だろう?適切に表現できないけれど、表現を見つける必要があって、鬱屈は大きくなる。堆積したストレスに色は無い。
 爆発。
 とてもシンプルな理由は、しかし、シンプルであるが故に気付かない。溜まっていたかどうか検証できず、そもそも爆発したことすら認知の外で、気がついたらキャンバスを張り、静物の下絵を描き、油絵の具を混ぜていた。泣き声に気付かなかったのか、泣かなかったのかも定かではない。
 12時間ほど経っていた。
 目に映る青が気に食わなくて、どうしようか思案していたら、不意に子どもの存在を思い出した。母親だった。それ以前に絵描きだった。
 子どもの様子を確認するために立ち上がった瞬間、青の調合を思いついた。

元素12ヶ月を改訂

トップ > 空虹桜短編集 バージェス頁岩 > 水素
空虹桜HP アノマロカリスBANNER
(C) Copyright SORANIJI Sakura,2023-2024
e-mail bacteria@gennari.net