ひょんの木
「あ”っ!」
自分でも驚きの声に、ウイスキィボトルの向きを微調整してたマスタまで、わたしを見た。
「・・・大丈夫?」
ドライマティーニ嘗めながら次の段取り確認してただろう隣の男は、フリーズからの復帰に30秒超費やした。
「大丈夫。気にしないで」
(『にょんの月』なだけだから)
まで言わない。さすがに自制心はあるよ。人並みに。羞恥心だって。
毎日が「日常」なんて名前でグルグルするから、中学からやってるブログを「にょんの月」にタイトル変更。毎月変えるつもりで。脳内ガッツポーズするぐらいのダサカワフレーズだけど、旧友たちはイマイチな呟き。
翌日。通勤電車で「ひゃん」とか似合わぬ可愛い悲鳴あげちゃうほど尻まさぐられ、その手を思わず捻りあげて出すとこ出したら、財務官僚だった火曜。水曜は朝の9時から夜の9時まで1時間1セットで全部違う案件の12時間耐久打合せ(昼抜き)
で、今日。数あわせで連行された合コンで、ひょんなことから持ち帰られよかどうしよか。な、今現在。
「にょんの月」で「ひゃんの火」に「ひゅんの水」と来て、明日は「みゃんの金」か? しょーもな! と、気づいちゃったから出た、さっきの「あ”っ!」
超短編 500文字の心臓
第127回競作「ひょんの木」逆選王作
トップ
>
空虹桜
短編集 バージェス頁岩
> ひょんの木
(C) Copyright SORANIJI Sakura,2013
e-mail
bacteria@gennari.net