魚と眠る
本来はカタカナで、「
カ
」にイントネーション置いて発音するのだけど、推測変換は「サカ」の時点で漢字一文字を提示してくれるし、今となっては「サ」だけで変換できてしまうから、LINEじゃ、家族みんな漢字で通している。
明日、この家を出る。
わたしが10歳の時、この子は家へやってきた。中学の頃、軽い不登校というか、単なるサボり癖を患っていたので、日中、居間のソファで惰眠を貪っていると、わたしの上に乗ってきた。遊べというのか、テリトリをアピールするのか、それなりに重たいから苦しいのだけど、でも、今思えば、あの頃が一番寝ていた。
日が替わって、今日、この家の人間ではなくなる。
「おいで」
わたしの声に応じて、ゆっくりと起き上がるから手で制する。年老いて、脂分の足りていないモフモフは、モスモスな手触りだけど、色合いは変わらない。そばへ寄って、深く抱きしめる。顔を埋める。睡魔が忍び寄る。
「
だいすき
」
当然口の中に毛が入るから、自分でもなに言ってるかわかんないけど、ちゃんと伝わっている。そう信じる。信じる強さこそが愛だ。
超短編 500文字の心臓
第162回競作「魚と眠る」投稿作
トップ
>
空虹桜
短編集 バージェス頁岩
> 魚と眠る
(C) Copyright SORANIJI Sakura,2018
e-mail
bacteria@gennari.net