結晶

 そこはマンションの屋上。柵を挟んで対峙する男女一組。
「近寄らないで!」
「落ち着け。話し合おう」
「嫌! 一歩でも近づいたら墜ちるわよ!!」
 痴話喧嘩にも見えるが、真偽は本文と関係無い。
「こんなところで死んだら、君のご両親が悲しむぞ」
「あの人たちにそんな感情無いわよ!」
「そんなわけない! 君は・・・君はミョウバンなんだ」
「待て」
「ビーカの中で大きく育ったミョウバンなんだ!」
「えっと・・・もうちょい良く喩えて」
 はたして、ミョウバン登場の是非は本文と関係無い。
「じゃあ・・・そう君は、君はご両親の血と汗と涙の」
「下ネタ!?」
「えー。そっちですか?」
 下ネタだと理解できるか否かは、本文と関係無い。
「ならそうだ! 君は、君は雪の一片だ。一片ひとひら形が違う。それぐらい君の存在は貴重で」
「融けて消えてしまえって言うんだ!」
「違う。待て。違う。ウチの田舎じゃ、裸眼で見えるぐらい大きな」
「雪みたく墜ちて、融けて消えるんだ。消えてやる。消えてやる!」
 そして、女は墜ち、大地に朱い六角形を広げた。
 女の朱は、そう簡単に融けて消えやしない。

超短編 500文字の心臓
第106回競作「結晶」参加作

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