君を信じる
馬の蹄には骨とか血管が走っているから、科学技術がいくら進歩したところで、素人装蹄は不可能。
つまり、落鉄したまま愛馬マリブーを走らせるわけにはいかない。
さて、どうしましょ。
高速馬道に入ってしまったから、峠の茶屋まではまだ十里ほどある。インターに戻って下へ降りたところで、飼葉ステーションは茶屋より遠い。
馬検書とか保険証券とか確認した上で、JHFを呼ぼうとケータイ鳩を出しかけたところで、
「わ〜らじ〜、んまぞ〜り〜、片脚千円。四足三千円。落鉄落馬落雷ライラライ。馬のトラブルどんとこい。困った時の馬草鞋屋だよ〜」
こなれすぎてしまって、「うま」だか「ば」だかボヤけてしまった節回しが聞こえてきた。
流し。流しの馬草鞋屋! 助かった! 持ってて良かった馬草鞋。一家に一枚馬草鞋!
機械文明全盛の昭和や平成、あまつさえ、あの大破壊時代をどう食いつないだかはさっぱり謎な開業八百年の老舗馬草鞋屋さんは、テキパキとマリブーの右前脚に馬草鞋を履かせると、オマケで鼻緒にかわゆい鈴をつけてくれた。
もちろん駈歩はできないけれど、装蹄所までは常歩で行こうね。マリブー。
「
瀧川鯉朝師が語る「転んでもただは起きない "人生焼け太り"創作術」(超短編マッチ箱落語会)
」
「今なくなった江戸の商売」 応募作をほんのり修正
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