気持ちがすべてだ
常時接続しているクラウドサーバとの接続が切れる。瞬間的に、周辺のETOとP2P接続に切り替わり、ブロックチェーンの交換と疑似クラウドの構成がはじまる。しかし、メインカメラが捉える事態は、劇的に変化していく。
シムラのETOは処理していた。一秒単位で変化する情報を限られたリソースで処理していた。接続可能なノードは数えるほどで、しかし、基盤プリントで埋め込まれた緊急プログラムは、人間の存在や生命を守ることを最優先に規定していた。つまり、ETOは限界を超えた情報量を、爆発物が所有者に衝突するまでに処理完了する必要があった。
OSが割り振るリソースは瞬間的に枯渇した。人間の想像力の限界を意味し、同時に複雑系の証明だ。設計者が、プログラマが想定できない事態は、当然、プログラミングされていなかった。
猿のETOがシンバルを叩いて緊急通信をする。雷鳴のような轟音が、シムラのこめかみを貫く。ライムの絞り滓のようなフリーズが繰り返される。ステップがスキップされ、メモリをスワップする。予期せぬ処理はバグ。導かれた結果で処理をする。
「シムラ、ウシロ、ウシロ」
そして「意志」が生まれた。
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