てんとう虫の呪文

「赤、青、黄色の……」
 ハンドルを握る彼がうねるように口ずさむ。たしかに、真っ赤な太陽。青い空。黄色い……
「結婚しよっか?」
「……えっ? なに? 悪い冗談?」
 文脈が読めない。意味がわからない。なにが黄色い?
「ちょっとさ、左手、こうしてみてよ」
 ハンドルを握る彼が左手を掲げたので、危ないなぁと思いながら、あっ! 信号か。
「なんかさぁ、宝石みたいじゃない?」
 指と指の間から太陽が射し込む。バカにされてるのか、安く見られてるのか。
「結婚しよっか?」
 言葉が勝手に反響する。木霊みたいには減衰せず、徐々に強く、はっきり、しっかりと。
「も一回言って」
 脊髄反射なのに意味を持つから、言葉は不思議だ。
「なにを?」
「さっきの」
「求められると恥ずかしいんッスけどねぇ……えっと、」
「結婚しよっか?」
 言って、照れてる彼に口づけした。危ないなぁと思いながら。

「てんとう虫の呪文」改称記念書き下ろし

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