マグネシウム

 誰かの物語になることだけを願った。

 と、書いて物語を終わる。
 一息つく。
 すくなくとも、これでわたしから出づる物語としては終わり。書き足すことはない。書くべき物語はこれだけでも無い。
 書きたいことは、とっくの昔に尽きてるけど、書くべきことは恐ろしく無造作に転がっていて、憂鬱にすらなる。
「死ぬまでに、あとどれだけ物語が読めるのか」と人は言うけど、あとどれぐらいの物語が書けるのか?
 文字数にすれば総計1000万文字に達するか。50も物語が書ければ大手を振って死ねるか?
 書き終えた物語を棚に上げて、一息で思考する自分にすこし呆れる。
「人生は一冊の本」だと言うけれど、物語と本を混同している。人生という物語は誰にも読まれないが、誰もが登場人物であり、神はモノローグを付けない。
 けれど、作者は自分だから、作者を裏切る方法を常に考えている。
 物書きだから

元素12ヶ月を改訂

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