ありふれた生の直接的表現
2daysの二日目朝は、オーバーナイト法で低温長時間発酵させた生地の復温からはじまる。
『プーチンが悪い』『円安が悪い』『デフレが悪い』と、小麦粉高騰の鬱憤を叩き込まれた割に、酵母はしっかり発酵を進めてくれている。
「
おはよー
。いい発酵臭だね」
顔を洗ってきたエリと、生地のガスを抜いて小分けにする。
ボトルネックはオーブンだから、まずはベンチタイム終わった生地を食パン型に入れ、コールドスタートで二斤焼く間に他の生地を伸ばし、ドライフルーツ混ぜたり、溶かしたバターを加えたり、チーズや餡子を中に閉じ込めたり。
「やっぱ小麦とバターの焼ける匂いは最強だね」
「焼けた酵母の死臭だよ」
「発酵止まれば、いずれにせよ」
補足不要の会話。焼く悦楽。君のためでも貴方のためでもなく、自分のために好きなモノを財布の許す限り
ありったけ
。がテーマ。
焼き立ての食パンを「熱い」言いながら毟ると、さらに匂いは広がり幸福に埋め尽くされる。この匂い嗅いで他者への悪意を保てる人いるの?
「
グルテン食べれなくなったら死ぬ〜
」
「
酵母か!
」
わたしのツッコミで二人は爆笑する。
さて、次どれ焼こう。
お笑い大惨寺・超短編3月「パンまつり」
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