密室劇場
「カミサマがいるんだって」
古い劇場ならこんな隠し部屋が必ずあると、旅一座で花形女形の少年は言った。
カモフラージュが巧みなのか、それとも袖の暗さのためか。言われなければ扉になんて気づかないだろう。
「中、どんななのかなぁ?」
四畳半に満たないこの納戸には、なぜか龍神を奉った神棚があるだけだと聞いていた。
初日前夜。十二歳までの少女か、あるいは十二歳までの女形が、その劇場に奉られた神へ芝居を奉納し、眠る。そうすれば大入り満員、無病息災で公演を終えられるのだ。
それがしきたり。
「知らない。真っ暗でなんも見えないから」
扉の向こうを知っているから少年は、早く次を案内したくて、わたしの手を引いた。
「ああ・・・そうだね」
生贄の条件に適さないわたしは、せめて少年の無事を龍神に祈った。
超短編 500文字の心臓
第35回競作「密室劇場」参加作
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