今日で年季が開ける。自分の力でこの町を出る。
最後だからと、おかみさんが淹れてくれたお抹茶とお饅頭が、殊の外おいしくて泣いてしまった。
今、身に纏うすべてが唯一わたしの財産。この体からわたしがはじまる。
曾祖母の形見を巻く。
記憶の中で朧な人だけれど、いつも陽の匂いを纏っていた人。
戦火からずっと普段使いされていたから、とっくに痛んで解れたのだけれど、幼いわたしが望んだから、祖母がお直ししてくれた。
今日という日はお日柄もよろしく。祖母がお直ししてくれた、曾祖母の形見を巻く。
超短編 500文字の心臓
第124回競作「メビウスの帯」参加作を修正