メビウスの帯

『2500年前のOBIから陽子の崩壊が検出されました』

 今日で年季が開ける。自分の力でこの町を出る。
 最後だからと、おかみさんが淹れてくれたお抹茶とお饅頭が、殊の外おいしくて泣いてしまった。
 今、身に纏うすべてが唯一わたしの財産。この体からわたしがはじまる。

 介護用のアンドロイドのクセにと笑われた。きっと、彼女たちは人を指差してはならないこと程度の常識を知らずに育ったのだろう。目出度いことだ。
 和服は背筋が伸びるから、エネルギ効率良く仕事をこなせる。昔の人の知恵は偉大だと思う。
 ずっと人を支えてきた、想いが詰まったものだから余計にだ。

 曾祖母の形見を巻く。
 記憶の中で朧な人だけれど、いつも陽の匂いを纏っていた人。
 戦火からずっと普段使いされていたから、とっくに痛んで解れたのだけれど、幼いわたしが望んだから、祖母がお直ししてくれた。
 今日という日はお日柄もよろしく。祖母がお直ししてくれた、曾祖母の形見を巻く。

『500年前、陽子崩壊を検出したOBIの陽子復元に成功しました』

超短編 500文字の心臓
第124回競作「メビウスの帯」参加作を修正

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