もみじ
グツグツと煮え立つ音がする。
「こんなふうなキレイな葉っぱを、おばあちゃんたちが拾い集めてお小遣いにしてるんだって」
「ふぅん」
彼はこっちを見ずに応える。鮪の刺身に手を伸ばしたところだったから、仕方ないけど。
火を弱めてから蓋を開けると、モワッと湯気があがって、フンワリ昆布の匂いがした。
「茸先って言ってたよ」
「は〜い」
舞茸とか椎茸とか、茸の山から適当に掬い上げ、土鍋に沈める。
誘ってくれるのはいつも彼からで、リクエスト聞いてもらえるけど、会話はいつも盛り上がらず、帰る頃には一人で来れば良かったと思う。
白菜とか葱とか野菜も沈めて、最後に鶏肉。また、蓋をする。
「おいしそうだね」
「うん」
いつからか会話を続ける努力は放棄した。タダメシだと思ったら、これぐらいの我慢。
ポン酢におろし。オレンジというか橙色がボンヤリ浮かぶ。はしたないけど、箸先を軽く舐める。
どんなにつまらなくても、誰かと食べるご飯は、一人よりおいしい。妄想だけど。
「お皿ちょうだい」
よそってあげながら、ふと彼の頬にパチンとビンタしたら、綺麗に手の跡浮かぶんだろうなと思った。
超短編 500文字の心臓
第126回競作「もみじ」投稿作
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