麦茶がない

「イナガチャムギ観察!?」
 今でもハッキリと自分の驚き声を覚えています。
 夏休みの大半をわたしは野山で過ごしていたので、母は自由研究にそのような提案をしたのでしょう。イナガチャムギが珍しくない地域でもありました。
 ご承知の通り、イナガチャムギは蛹の間に発酵を伴うため、古来より蛹を集めて潰し、酒としました。子どもは誰しも一度呑んでみたいと思うもので、わたしも、自由研究中に呑む機会があるかと期待しました。
 翌日から、わたしは山でイナガチャムギの幼虫をたくさん捕まえました。幼虫は主に朽ちたギムの木にいますが、ギムトハの木にもいます。捕まえた場所や時間、木の名前を観察日記にまとめました。あまりにたくさん集めたので、一匹ずつではなく、しかし、詳細に記録しました。
 まとめる中、ギムチモの木で捕まえたイナガチャムギは、蛹の間に発酵しないことに気づきました。できる限り辞典やWebを調べましたが、そんな記載はどこにもありません。つまり、世界でわたししか知らない事実だったのです!
 そこからさらに研究を重ね、完成したのがチャムギです。商品名としては漢字を当てています。

超短編 500文字の心臓
第148回競作「麦茶がない」逆選王作

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