生(2)

 闇夜の蟲たちが一斉に啼き止んだ。
 風すら吹くことを忘れるこの瞬間が、なによりも怖い。
 静寂。
 怖さは血流に乗り、脳から頸動脈を経由して心臓を啼らす。トクンと一度啼らす。
 その音が気取られないように、わたしは息を詰めた。
 なにに気取られてはならないのか?
 静寂。
 そう、静寂を壊してしまうことが怖い。
 まるで心臓のように、肺が酸素を求める。
 この闇夜も、おそらく息を詰めているに違いない。
 音たちが出口を求める。
 静寂。
 気付くと息が啼り、肺に酸素が満ちていた。
 遅れて啼きだした蟲たちはまもなく死んでしまうだろう。
 次の季節は、静寂を壊した間抜けな人間にだけ訪れるのだ。
 風も戻って優しく啼る。
 もうすぐ、夏が終わる。

超短編 500文字の心臓
第51回競作「生」参加作を修正

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