誰も救いには現れない

 ブツブツと呟く。すぐに呟きに追いつく。音よりも速く動くのはとても容易く、マッハの壁にぶつからないことも違和感を感じない。
 夢である。幻である。しかし、明晰である。
 思考が一定のリズムを刻む。呟きが古い曲のビートをなぞっていると気付き、追い越す。
 目を開く。夢の中で。肉体の目を開く。見える。脳が認知する。刺激として光を捉え、寝言のような呟きに気付いたら消えている。
 人のすくない車内。レールの継ぎ目がリズムを刻む。歩いてはいないが進んでいる。進むことはループする。刻まれるテンポは一定。加速も減速もしない。窓の外を見ると壁。トンネル?もしかしたら、地下鉄なのかもしれない。
 本当に起きているのか?ダブルミーニング?自分を疑う。しかし、現実も胡蝶の夢であると思い出す。地球は自転し、公転し、繰り返す。等速直線運動を続ける列車に、醒めない夢を見ているのだと考えを改める。

 どこにも着かなければ良いな。

 呆れるほど幼い欲望が湧いたけど、内包するには大きすぎる自己矛盾が音をたてて崩れる。

書き下ろしを改訂

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