死ではなかった
最期に昔話をさせてくれ。サウス・ブロンクスがクラックと拳銃と貧しさで腐ってた頃の話だ。
あの頃の俺は、永遠に等しいFXXKな日常が一番恐かった。だから毎日、銃弾飛び交う中クラックを捌くのが愉しくてしかたなかったんだ。15の俺さえサウス・ブロンクス腐さらせてることはわかっていた。けど、ジャンキーの娼婦が母親じゃ、他に選択肢は無かった。
飯の種だからクラックには手を出さず、その代わりウィードとHipHopに溺れた。ブギーダウン・プロダクションズに憧れて、ノトーリアス・B.I.Gに自分を重ねた。リアルな幻覚だったんだ。リリックとビートに共感し、似た境遇のアイツらみたいなギャングスターに、俺もなれると思っていた。FXXKな日常を脱出できるってな。
それがこのザマだ。俺は30年も売人をやっちまった。
だから、な。このFXXKな日常に生き延びたくないんだ。生きてることが恐いんだ。見殺してくれよ。ようやくFXXKな日常から抜け出せるんだ。2Pacは96年。ノトーリアス・B.I.Gが97年。ジャム・マスター・ジェイまでが02年に撃ち殺されて、そして俺なんだ。最期ぐらい、ギャングスターみたいに殺してくれよ。頼むから。恐くないから。な。
超短編 500文字の心臓
第94回競作「死ではなかった」投稿作を修正
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