かつて一度は人間だったもの

――すべて「死」に立脚した「生」の美である。言い換えれば「人工的」な「自然」の美となろう。つまり、美意識は「自然」それ自体よりも適度な「人工」に対して鋭利に反応するのだ――

 大理石で組まれた台座に、嵌め込まれた説明と解説。
 その上に、プラスティネーションでは表現しきれない、彩色とディオラマによる、神がかったあるいは悪魔的な「美」
 きっと、ダダ星の学芸員が夢見た博物館はこのようなものだったのだろう。
 物音がして、わたしは振り向いた。仮に捕えられたとして、このように飾られるなら、自然に生き延びるよりも価値があるのでは? そんな俗な想像とともに。
 わたしは2つの足で立つが、同時にワイヤで吊られている。人はそんなわたしに「美」を見出す。
 本能は叫んだのだけれど、既にわたしはなにも震わせることができない。

超短編 500文字の心臓
第77回競作「かつて一度は人間だったもの」参加作

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