ぺぺぺぺぺ

 そんな音が彼女の合図だ。坂下から聞こえてきたら、みんな一目散に逃げ出す。彼女は嬉々としてVespaで追い回す。
 ツーサイクルのレシプロエンジンは、スズメバチとは思えない愛おしい音で殺戮を奏でる。
 坂のてっぺんなウチの前を通る一瞬だけ、父と母と妹を殺した彼女の鼻歌が聞こえる。彼女の鎌が、僕の目の前で美しい軌道を描いて屠った。
「いってらっしゃい」
 2階の窓からモッズカラーなヘルメットに声をかけると、彼女は軽く右手を挙げる。死によってつながった、彼女と僕の儀式。
 いつになれば彼女は僕を鎌にかけてくれるのだろう? 残念ながら、僕は明日も彼女を見送る。

超短編 500文字の心臓
第163回競作「ぺぺぺぺぺ」投稿作

トップ > 空虹桜短編集 バージェス頁岩 > ぺぺぺぺぺ
空虹桜HP アノマロカリスBANNER
(C) Copyright SORANIJI Sakura,2018
e-mail bacteria@gennari.net