ぺぺぺぺぺ
そんな音が彼女の合図だ。坂下から聞こえてきたら、みんな一目散に逃げ出す。彼女は嬉々としてVespaで追い回す。
ツーサイクルのレシプロエンジンは、スズメバチとは思えない愛おしい音で殺戮を奏でる。
坂のてっぺんなウチの前を通る一瞬だけ、父と母と妹を殺した彼女の鼻歌が聞こえる。彼女の鎌が、僕の目の前で美しい軌道を描いて屠った。
「いってらっしゃい」
2階の窓からモッズカラーなヘルメットに声をかけると、彼女は
軽く右手を挙げる。死によってつながった、彼女と僕の儀式。
いつになれば彼女は僕を鎌にかけてくれるのだろう? 残念ながら、僕は明日も彼女を見送る。
超短編 500文字の心臓
第163回競作「ぺぺぺぺぺ」投稿作
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