可能性概論

 浴衣で、金魚下げてかき氷食べてるってのに、隣はモコちゃんだ。
「わたしは今日を、これから幸せの基準にして生きるよ!」
「マンガチックに誤魔化さなくていいのに」
 かき氷よりも冷たく甘い言葉で、モコちゃんは慰める。
「地球には何人男がいると思う?」
『35億』
 今じゃなきゃ面白くもなんともないパワーフレーズに、ガハハと笑う。
「じゃあさ、一生って何秒だと思う?」
『35億』
 誰かの目を気にすることない爆笑が皺に残るなら、死ぬまで誇りたい。
「80歳まで生きて、25億秒ぐらいらしいよ」
「『億秒』とか、わからんちん」
「2万9千日ぐらい」
「諭吉3人以下?」
 口にしたら、単位無茶苦茶でも、射的で落とせなかったPS4すら買えない事実がリアルになる。
「残人生、2万3千日ぐらい」
「カウントダウンだ」
「終わり見えずに頑張るより良くない?」
 空に光が駆け上り、全身を揺らす大きな音がした。
「今夜は今日だけだぞ」
 どれだけ大きく揺らされても、溢れた言葉は幼く拙くて厭になる。
「帰れると思うなよー」
「ヤだ。歯磨きたい」
 今日より楽しい夏デート、あんのかな?

20周年!もうすぐオトナの超短編」たなかなつみ選 投稿作

トップ > 空虹桜短編集 バージェス頁岩 > 可能性概論
空虹桜HP アノマロカリスBANNER
(C) Copyright SORANIJI Sakura,2017
e-mail bacteria@gennari.net