謎ワイン
夜中に目が覚めたわたしは、渇きを覚えベッドから出た。
ブラインドの隙間からは仄かに黄色い光が射し込んでいる。蛇口を捻ると、世界で一番安全なのに、嫌われものの水。すすぎっぱなしで置いていたグラスを満たし、窓際へ。畳んでいたスツールをなんとか片手で開き、その上にグラスを置く。
ブラインドを上げるとわずかに欠けた月。
若干の肌寒さを感じながらも、グラスを手に取ってから、スツールに腰掛ける。月明かりがしんとグラスを貫き、水は変容する。ゆっくり静かに。しかしはっきりと。はじめは清澄な薄い黄色。ついで花を思わせる薫り。小一時間もすると、水は既に水ではない。
一気に飲み干す。
月の光はまろやかな口当たりで、はちみつのように甘く、ちょっとだけ酔った。
超短編 500文字の心臓
第91回競作「謎ワイン」投稿作
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