絹の雨

「この世には手に入らないものばっかで、手にした瞬間、みんな消えてなくなっちまうんだ」
 そんなこっぱずかしい、ガキみたいなことを、あいつは結構本意気めいた顔で言ったので、ついつい笑ってしまった。
 理不尽なんか、結構いい数乗りこなしてんじゃね?俺ら。
 わずかに黄色みがかった、ほぼ無色の液体でぐい呑みを満たす。己の指に刻まれた皺に一瞬ハッとしたけど、立ち上る吟醸香が今へ引き戻す。
『熱燗にしたら、甘口が辛口に、辛口が甘口になっちまうじゃないか』
 心で言って、だる燗ぐらいにまで冷めた液体へ口をつける。
 言葉にしなければならないほど若くはなく、言葉にできるほど歳を取ったとは認めたくない。

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