恋壊(れんかい)

「恋は壊れるものなのれす」
 口づけを交すと、女が呟いた。細く幽かな声がまとわりつくのは、俺が本気じゃないからだろう。
 なんとなく交尾後に雄を喰らう昆虫を思い出したので、乳房をまさぐる指先に集中する。
「溢れへしまいまふ」
 たしかに……濃密で鼻を突く臭い。
 嗅覚を意識した途端、今まであった感触が途切れ、急に脂肪が万有引力を訴える。
「分はれてゆきまつぅぅぅ」
 女の顎が外れた。
 体中の筋に沿って黒い液体が流れ出したので、俺は塗り付けると一気に貫く。腰を振る。
 音が、肉がぶつかるたび、女が崩れていく。
「ぉゎぇぇぅぃぁぅぅぅぅ」
 俺が達すると同時に黒い液体に炎が奔った。
 射精の虚脱感に囚われたまま、揺らめく炎を眺める。締め付けたままの下腹部以外、もう女は存在しない。
 歯車が爆ぜ、紅に包まれた右手が部屋を出てゆく。
 女の言葉は嘘ではなかった。
 己も燃え尽きんとする中、ぼんやりと俺はそんなことを思った。

コトリの宮殿 in 超短編マッチ箱
アトリエ超短編投稿作

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