日の出食堂

「いただきます」
 油が跳ねたかと思うと、包丁が小ぎみよくリズムを刻む。
「あのさ、おばちゃん」
「なに? 勝手に喋ってて。聞こえてるから」
 おばちゃん一人で切り盛りするには繁盛しすぎなほどで、炊飯器から水蒸気が吹き出し、什器が擦れ、蛇口がキュッと締まり、客が一人、お代を置いて出て行く。
「俺さ、今日でここ来れるの最後なんだわ」
「ツケ払っててよ」
「チンジャオロース旨かったなぁ」
「しんみり言わないの」
「産まれたくねぇなぁ」
「なんのために死んだのさ」
「そうだけど・・・またしばらくおばちゃんの飯食えなくなるんだぜ」
「どうせまたいつか帰ってくるんだから」
「そしたら俺は俺じゃないし」
「アンタがアンタだってことぐらいわかるわよ」
「そっか・・・よろしくね。ごちそうさまでした」
「お粗末様でした。ちゃんと産まれなよ」
 おばちゃんの料理が恋しいから、人は泣いて産まれるのだ。

超短編 500文字の心臓
第64回競作「日の出食堂」正選王作

声に出して読まれたい超短編」栗田ひづる賞 大賞(最優秀作品賞)

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