やわらかな鉱物

 ちーちゃんは混乱していました。頭の中がぐわんぐわんします。
 長瀞渓谷が自然公園で天然記念物だと、チーちゃんは知りません。ただ、崖に爪跡が残ってしまったので、勝手に視界がボヤけて、勝手にしゃくりあげて、息をするのが苦しくなります。
 ぼんやり爪の隙間に挟まった白いなにかを見たら、その向こうに妹のあーちゃんがいました。
「あーちゃん、めっ!」
 突然の大声に驚いて、ゆっくり泣きそうな顔であーちゃんは振り向きました。
 見る見るあーちゃんは、複雑な表情になります。
「ちーちゃん泣いてるの? あーちゃんのせい?」
 言われて、ちーちゃんは自分が泣いていることを知りました。そして、我慢できず、ちーちゃんは声を出して泣きました。あーちゃんも一緒に泣きました。わんわん長瀞渓谷に泣き声が響きます。本当に響きます。
 二人揃って泣き疲れて、どうやって謝ろうかと考えた二人は、刻んだ線をつなぎました。「ゴメンナサイ」と。

超短編 500文字の心臓
第132回競作「やわらかな鉱物」投稿作

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