小鬼の秘密 - Tone

 すれ違いざまに「グイズ」言われた北京の14:23。なんのことかサッパリわからないので、
「OK、Google」
 eSIMはやっぱり便利で、海外をフラフラする身の上としては、いちいち通信を気にしないで済むのは助かる。現代文明は最高でしかない。
「貴子」
 ディスプレイに漢字が表示されたけど、たかこ? きこ? もちろん「菫」と名付けられたわたしを指し示さない。字面をそのまま解釈するのならエレガンスの形容に見えるけど本当?
 そのまま和訳させると、文字通りの意味が表示された。
「マジか」
 意図せずこんな雑な日本語が口を突くと、しみじみ日本人だなぁという気になる。いちいち、ウンコや性行為を吠える英語ネイティブよりかは幾分マシな気もするけど、どっちもどっちか。
 振り返って見ても「グイズ」言った人は見当たらず、そもそも姿形を覚えていない。覚えているのは・・・声。声!
 現代文明にもう一度、二度声をかける。記憶の声を自分の声帯と舌で再生する。三度目に違う結果が導かれる。
ああ
 たとえ血縁でも、話したことすらない誰かの怒りをキープする体力の無いわたしでは、ただただ、やりきれない。

超短編 500文字の心臓
第189回競作「小鬼の秘密」参加作

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