スイーツ・プリーズ

「ねぇ、なんか甘いのちょーだい」
 気怠そうにカオリは言う。
「“チョコ”は無いぞ」
 カオリを見ずに俺は答えた。ガサ入れの噂がある。「カモに餌を与えてたから捕まった」なんて、指だけじゃ済まない。
「甘けりゃなんでもいいよ」
 重たい匂いが鼻腔をくすぐる。薄暗い室内で、カオリの声がする方だけ、なんだか明るい。ふと、サイドバックのポケットを思い出す。
「こんなんで良けりゃ、くれてやる」
 いつだったか馬鹿な女からもらった、ラムネを3粒。後ろ手で手渡す。
「あは。ありがとう」
 ラムネを寄越した女は、たしか、ミイラみたいな姿で事切れていたのを発見された。もちろん、俺は見ていない。
「甘くておいしい」
 すべてサイドバックに納めると、外へ出た。そういえば、カオリの顔を一度も見ていない。数瞬の思考は、すぐに忘れた。
 ただ、そう。今度会ったらチョコレートぐらい供えてやろう。

超短編 500文字の心臓
第105回競作「スイーツ・プリーズ」参加作

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