すいている
対面式のボックスシートで窓側に腰掛けている。
すこし開けた窓からの風が気持ち良く、暗い田圃の向こうで明るい高速道路。
だが、なによりまあるい月が綺麗だ。
「お前、なんでそこ座ってんの?」
不意に思い出して、斜向かいに座るマキへ尋ねる。今日は、ボックスひとつ贅沢に座っても怒られないだろう。
「えっ? ダメ?」
マキは応える。目はスマフォから1mmも逸らさない。そのまま視線を右にやれば、誰もいない隣のボックスシート。そして、真っ黒な窓。ぼんやり写るマキが揺れている。まるで、この汽車には自分たち以外誰もいないような。いや、ワンマンなんだから誰かは間違いなく運転している。
視線をマキに戻す。
透明マニキュアとか、色付きリップとか、微かな香水とか。ギリギリ校則に違反しないステロタイプな女子高生。なんてコピィが浮かぶ。ついこないだまで中学生だったのに。
「先、座ってたし」
「いいじゃん。寂しいもん」
マキはちっともこっちを見ずに答える。仕方がないから、マキが見てくれるまでずっと眺めることにする。
「着いたよ」
マキが言う。二駅30分は270円。
「やっとこっち向いた」
超短編 500文字の心臓
第117回競作「すいている」参加作をだいぶ修正
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