鈴をつける
目を醒ますと君は気づいた。最初は小さく、起き進むにつれ、明確になる違和感に。
「にゃんだごりや」
発声した君は、自分の体に起こった事象を「可動域の拡張」と理解した。だから、発音が正確にできないと。
ベッドを降りる頃には、君は可動域だけでなく、体のあらゆるところに関節が増えていると気づいた。滑らかに曲がると知った。
虫になったわけではないから、君はいつもの朝支度をはじめた。そして、不意に君は悟った。岡村靖幸が唄っていたとおり、心臓がヘビメタを熱演していると。
増えた関節たちが熱演にあわせて、悶え、蠢く。可動域を拡張し続ける関節は、君の記憶を刺激し、思い出させた。アフリカ研究の文化人類学者が、ダンスの本能性を説いていたことを。
関節の本能に流され踊ることの正当性を、君は信じた。
でも、足りない。
直感的に君は気づいた。ビートだけでは、このダンスを満たすことができないと。増殖し拡張した関節の歓喜を表現しきれないと。
手っ取り早く、君はベッドサイドの鍵束を掴む。
シャンシャン
キィホルダに付随した小さな金属塊が震え、心臓と関節が呼応した。
君は欲求に従う。もっとこの音を!
超短編 500文字の心臓
第114回競作「鈴をつける」参加作を一部修正
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