シンクロ
南中の陽を照り返す海面が深紅の艫によって波立つ。鯨を追う内に辿り出でた大洋を、漕ぎ手たちは漕ぐ。
遠く離れた海洋の島々が似たような文化を持つのは、同じような肉体が、同じような方法で、同じような理由から、海を渡るからだ。己と積み荷を運ぶために漕ぐ。生きるため命を削り漕ぐ。贈与と交換を繰り返すために漕ぐ。貨幣も物品も花嫁さえも、原始の時代から人々を漕がせてきた。
そして、漕ぎ手たちは曝される。荒らぶる波、吹き荒ぶ風、逆らうことを許さぬ海流。だが、漕ぎ続ける人々は対する術を見出だす。巡る昼夜に、寄せては返す波に、漕ぎ続ける艫に、打ちなり続ける己の心拍に。
漕ぎ続ける彼らは、ひとつとなった勢子舟は、深紅の艫は、今、黒潮に漕ぎ入る。
超短編 500文字の心臓
第87回競作「シンクロ」投稿作を一部修正
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