おしゃべりな靴 - the dance -
自然に不器用で流麗な舞。
音楽も拍子も無く、ただ爪先と踵を床に叩きつける音だけが反響する部屋。踊る二人が会話を交わしているのだと気づいたのは、五分ほど経ってからだ。
近隣の特養と小規模病院から、真っ白いシェルターへそれぞれ逃げ込んできたわたしたちでは、彼らの会話に参加できない。
左右、どちらの足をも軸として振り、叩き、回り、組み、跳ね、揺れる。
白いバレエシューズの爪先と土踏まずと踵は、各々に別の意味を帯び、同じく、尖端と中央部と踵に別の意味がある。感情と論理と汗と疑念が、太ももの筋力と足首の剛性で表現される。
両義手と左義足。そして、耳が不自由。
ありきたりな形容だけれど、足が別の生物のように饒舌な無言。意味が言語に翻訳されることなく、脳で理解される。彼らにしかできない多様な表現は多様な意味を持つ。強度と剛性にのみ価値がある。
この危機的な状況で、自然に不器用で流麗な舞に、ただ飲み込まれる。
超短編 500文字の心臓
第171回競作「おしゃべりな靴」未投稿作
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