おしゃべりな靴

「どうした? 急に黙り込んで」
 国道40号線。
 狂おしいほど広い空は暗く沈んでいて、電池残量はもう僅か。給油も充電も地平線の向こうで遠く、減速充電じゃ稚内に届かない。
『電気の無駄』
「今さら黙っても遅」
『電波消失。位置情報不明』
 慌てて液晶を確認すると、現在地の表示が消えている。
『まもなく自動運転を終了します。操舵が切り替わりますので、ご注意ください』
 機械音声が警告を繰り返し、ゆっくりと路肩に止まる。
「ここまで……か」
『お疲れ様でした。降りますか?』
 降りてどうする? 左奥に広がるサロベツ原野を眺める。物語の終わりにはちょうどいいけれど、気障すぎやしないか。
「お前はどうする?」
『動けません』
「知ってる」
『足があるじゃないですか』
 言われて自分の足を見、触れる。
 たしかに。
 ある
『所詮わたしは物です。履き替えて、歩いてください』

超短編 500文字の心臓
第171回競作「おしゃべりな靴」投稿作

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