たまねぎ
「オニオンリング好きだねぇ」
店員下がったの見計らって、他愛ないこと口にしてみる。
「旨いじゃん。新たまの時期だし」
「不味くないけど」
「こっちってさぁ『生ラム』ばっかだけど、実家帰ると『味付け』だけがジンギスカンでさぁ」
沈黙怖いんで先を促す。あっ! ジーマーミ豆腐あるんだ。へぇ〜。マニアックだなぁ。なんて、メニュ見ながら。
「なもんでぇ、高校の遠足ん時なんか、肉屋に火と肉用意してもらって、昼間から公園でジンギスカンしたりすんだけど」
「ジンギスカン遠足」
花見でも月見でもジンギスカン! の人たちの考えることは恐ろしい。
「うん。で、当時の担任が『生で食べると辛いのに、火を通すと甘くなるから不思議だ』とか」
店員がジョッキとウーロンハイとお通しとオニオンリング(!)を運んできたので、ジーマーミ豆腐を頼む。絶対チンしただけだ。オニオンリング。
「で、オチは?」
間が悪くなったけど今ひとつ盛り上がんないし。
「俺らの関係も、もうちょい熱して、こう、甘〜く」
「つまらん」
ひとつ抓んでケチャップ浸しがぶり。いろんな味がすこしずつ口の中で広がって、でも、自然の甘さが統べる。
おいしい。
今はまぁこれぐらい。
超短編 500文字の心臓
第80回競作「たまねぎ」参加作を加筆修正
(ケータイ)
トップ
>
空虹桜
超短編集 エディアカラ
> たまねぎ
(パソコン)
トップ
>
空虹桜
短編集 バージェス頁岩
> たまねぎ
(C) Copyright SORANIJI Sakura,2008
e-mail
bacteria@gennari.net