タルタルソース

 この感覚は、どこかで経験したな。と、しばし考えて、初めてニューヨークを訪れた時を思い出した。坩堝とかサラダボウルとか、喩えが二つ名になっている国の中心は、適切な形容だから社会の教科書さえ採用するのだとわからせた。
 そして同時に、初めての渋谷スクランブル交差点で、テレビの向こうのはずな現実と、白人も黒人もモンゴロイドも、本当に交差点の真ん中で記念撮影をしている光景に受けた衝撃を、ニューヨークで思い出したことを思い出した。
 どちらの街も、ソリッドな社会とリキッドな社会が、この街のように混ざって、ゾル状の緩やかな輪郭に抱かれている。転移熱に似たエネルギーを内包して。
 ロシアとアラブとモンゴルと、一瞬ドイツに支配されながらも、退くことなく東ヨーロッパと中央アジアの交易拠点、かつ、軍事基地であり続けたこの街で、「第三次セヴァストポリの戦い」の端緒となった軌道エレベータを見上げる。バイコヌールでもボストチヌイでもない英雄都市に建造した人間たちの決意を思い浮かべ、過去からこの街に滾る生命力を想起する。
 不意におなかが鳴って、空腹に気づく。

超短編 500文字の心臓
第160回競作「タルタルソース」参加作

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