その掌には

 未来がある。
 なんてことを、柄にも無く思ってしまった。差し出した俺の小指を、有るとは無しな力で握りしめられたら。
 そりゃ、娘は大きくなって、生意気なって、嫁に出して、結婚式で女房は号泣し、俺は向こうのお父さんといい感じで呑み倒しましたよ。呑み倒しましたよさ。ホント正直な話、名字が変わったぐらいで、娘は相変わらず娘で、小生意気に磨きがかかった以外は大差が無くて、盆暮れ正月、見慣れぬ男一人加えてテーブル囲むぐらいのテンションでした。嘘偽りなく。
 それがこれだ。
 別に娘婿は悪い男じゃないし、いっそ、病弱な一人娘を甘やかしすぎた感があるから、彼に対する罪悪感すらほんのり無くはないのだけど、ソレとコレは別。わかりやすく言うなら、命ってスゲェなぁと。ヒキガエル似にも関わらず。つまり、形を持った命ってのは、それだけで、ただただスゲェわけだ。
 このちっこいのが大きくなるんだよなぁ。二十と何年で自分似の命を産めるぐらいに大きくなったもんなぁ。俺、正真正銘じーさんになっちまったなぁ。

超短編 500文字の心臓
第115回競作「その掌には」参加作

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