投網観光開発

 穏やかな風が、沙漠に波のような紋を描くと、少年は、それまで立っていた丘をくだった。
 沙鮫のテリトリに踏み入れる、ぎりぎり淵に立つことが少年にはできる。
 背負っていた縄を地面へおろすと、少年は20mほどある縄を丹念に広げた。縄の一方には明滅する機械が、もう一方には握り手だろう輪が付けられている。
 少年は、軽やかに上半身で円を描き、ストレッチをはじめる。誰もいない沙漠で。沙鮫以外誰もいない。
 また風が吹き、一瞬細めた少年の目が、沙紋の中に沙鮫の背鰭を認める。
 辛うじて縄が届く距離。
 瞬息で判断した少年の肉体は、頭上で数度回してから縄を背鰭へと投げ放つ。明滅する機械から沙鮫を包むようにビームが拡散する。
 刹那。
 沙鮫は沙漠へと沈み、沙漠の王と言わんばかりに飛び跳ねた。見とれてしまった少年は、しばらく手応えに気づかなかった。
 遠ざかる沙鮫に気をつけつつ、少年が縄を引きあげると、凜とした微笑みをたたえた少女が、ビームに包まれていた。
「お願い。海を還して」
「・・・わかってた」
 50年後、沙漠を海へ還した少年と少女は、こうして出会った。

超短編 500文字の心臓
第155回競作「投網観光開発」逆選王作を一部修正
thx まつじ

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