明日の猫へ

 蓋のある箱には、他に、一定量のラジウムとガイガーカウンター、青酸ガスの発生装置。
 思考実験すら、動物虐待となった現代において、蓋のある箱の外に餌を置くことは意味を持つ。つまり、α崩壊は起こらず、彼、もしくは彼女が、お腹を空かせて、自力で蓋を開けるのだ。
 箱の中で確率的に重ね合わされた、彼、もしくは彼女が、確定した未来で餌を食べるだろう。箱の外で確率的に重ね合わされた、ボク、もしくはワタシが、確定した未来を愛でる。今、そう信じる。
 「波動関数の収縮」が、人間の「意識」のみによるのか? 観測という「行為」によるのか? 巨視的な観測がいつも明確な値であるという原理は、経験的に得られた仮定でしかない。確率的な重ね合わせの重ね合わせが、仮定通りに明確な値を導くとは限らない。試行回数を重ねねば明確にならない。
 だから、蓋は開かない。

超短編 500文字の心臓
第164回競作「明日の猫へ」投稿作

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