連れてゆく(2)
微睡みの中、歩いていることだけを自覚していたあなたの耳に、唸るような低い音が響いた。
音と寒さと白み始めた空に、あなたの意識は少しずつ覚醒し、なにか光点が少しずつ大きくなってきていることに気づいた。
ギュッと左手を握られて、あなたはそちらに目を落とす。
あなたの左手を包む透けた誰かの手。足下には不揃いな小石と時々現れる木の切れはし。そして、鉄の……レール。あなたの頭の中で低い音と光点が結びつき像となった。
さらに強く左手を握られたせいか、不思議とあなたは恐怖を感じない。光点がだいぶ大きくなったので、ようやくあなたは前を歩く誰かを見た。光は輪郭と凹凸を浮きだたせ、あなたは左手が誰かの右手に握られているとわかった。
「大丈夫。一緒に行こう」
誰かはあなたの方を向いてそう言ったようだが、迫りくる低い音にかき消され、最後まで聞き取れなかった。
TVの怪獣のように光点が大きく鳴いたので、あなたは左手を強く握り返す。あなたには前を歩く誰かの顔があなたそっくりに見えた。
まだ頭のどこかは微睡んでいるが、あなたは安心して線路の上を。
超短編 500文字の心臓
第53回競作「連れてゆく」参加作を加筆修正
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