嘘泥棒
「♪ウっソ吐きドロボー。ウソドロボー。親父はオーリョー、母バイタ」
意味もわからずリュウジが愉しそうに唄って、ついでに殴るのを、わたしは他人事みたいに見ている。
痛いことは痛いけど、肉体的な痛みはいつか治るものだから、お気に入りのノートを破かれたり、お気に入りのペンケースをトイレに投げ込まれるより、よっぽどマシ。
「ホラ、なんかスゲェウソ言ってみろよ」
「3億ぐらいスゲェのな」
相変わらず殴るリュウジの後ろでそう言うと、ナオキとマサシはキャハハと笑った。
遠巻きに見てる元トモダチたちや、名付け親のメグミや、ヒロシ先生は、わたしがそうやってからかわれるのが当然だと思ってる。
誰もパパとわたしが別人だとは思っていない。パパがテレビや新聞の言うとおりなら、わたしも。
「ドロボーなんだから、ウソなんて楽勝だろ?」
わたしは心に刻む。悪でも正義でもない普通の人々は、悪と見なした対象へ、なにをやっても良いのだと。許されるのだと。
忘れない。
落書きだらけの机を睨みながら、わたしは、普通の人になりたい。
超短編 500文字の心臓
第96回競作「嘘泥棒」投稿作を一部修正
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