この世のどこでもない場所

「なぁんも、大晦日にこんな雪降んなくてもいいべさね」
「愚痴っても雪溶けねぇから」
 言って、ケンにママさんダンプを手渡すと、トシは雪かき用のスコップと、色違いのママさんダンプを掴んで、雪原のような玄関前に立ち向かう。
「さっき雪かきしたのに」
「しゃーねぇべ」
 音もなく雪は降り続ける。2時間前の足跡は見えず、ママさんダンプもスコップも白に染める。手袋は指先から冷たくなって、ものの5分で悴む。指先の痒みが霜焼けとトシが知ったのは、とっくに中学生を過ぎていた。当たり前すぎて、名前があると知らなかった。
「トシのくれ!」
 ケンが言う。ママさんダンプで表面を舐めても雪は残るから、スコップとの合わせ技が必要になる。
「な綺麗にしても、また積もるベ」
「なら、雪かきすんなや」
「たしかに」
 除雪車が築いた雪山へママさんダンプを滑らせ上る。雪を投げて雪山を下る。何度か玄関前と雪山を往復し、人が歩けるようになった頃には、30分経っていた。
「こんなもんか?」
「だべな」
「伯父さん帰ってくるまで保つかなぁ」
「無理だべ」
 ケンが見上げたので、トシも見上げた。音もなく雪は降り続ける。

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