山手・モッシュ・フェスティヴァル
車掌が停車駅の名を口にするより早く、スピーカからロックンロールが溢れ出し、前に後ろに詰めていた老若男女が縦に横へと飛び跳ねだした。レールのカーブが鉄の箱を適度にシェイクし、モッシュビットと化した車両は吊革も吊り広告をも阿鼻叫喚に踊らせる。汗はすぐさま蒸発し、天井で雲になると、マナーもへったくれもなくなったサラリーマンやOLを冷まさんばかりに降り注ぐ。
それが仕事だ! それが大人だ! それが人生だ! それが青春だ!
虚言妄言大口叩くロックンロールは、しかし、3:48でしっかり停止線に止まった。
汗や唾やなにやらにまみれた乗客たちは互いにハイタッチを交わすと、ホームへ降りる。彼らの興奮や熱狂は鉄の蜈蚣に閉じこめられたまま、一日中東京をグルグル回り続けるのだ。
それが仕事だ! それが大人だ! それが人生だ! それが青春だ!
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