野音のステージ後ろのかもめ広場で寝てるおいちゃんの思い出話
誰にだって若い時はあるし、思い出はある。恨み言や世迷い言なら尚更だ。誰も好き好んでこんなところで寝ちゃいない。夜中はゴキブリやネズミに、昼日向は人間どもに眠りを邪魔される。
にもかかわらず、強ばった関節ぐらいしか体の不自由が無い。なんの呪いか。
あの頃は、こんなところで寝起きする日が来るなんて思いもしなかった。その浅はかさが、この場所へ導いたともいえる。その日の給料を色と酒に溶かし、薄っぺらい日常を刺激的だと勘違いしていたあの頃。
後悔しても詮はない。しかし、後悔だけがつきまとう。常に。昨日より明日よりも今だけを生きていたハズなのだが、今がどこにもない。ただ、澱んだ毎日はある。
たまにSHOW-YAの歌声が聴こえんだ。たまらないぜ。どうしたって、あの頃に引き戻しやがる。もう戻れる場所はここしかないんだ。近場の交番のマッポは、転勤まで見逃してくれるってよ。
ああそうか。これは呪いなんかじゃない。夢だ。ただ今を生きてるだけの夢を見ている、
死人の夢だ
。
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