野音のステージ向かって左にある高い木の上に営巣した鳥の話

 気がついたらここにいた。
 ここは僕の家だ

 嘘じゃない。なにせ、殻を割ったのがここだから。この巣の中。この枝の上。卵の中で自意識に目覚めたから間違いない。
 もちろん目なんて見えなかったけど、僕の本能に間違いなんかないさ。僕の耳はこの巣の中で聞こえるあらゆる音を受け止めていたし、僕の体は振動として音を感じていた。
 打ち付ける雨や嵐も、定期的に鳴り響く破壊的な爆音も、穏やかな微風も、同じように揺り籠を揺らし、嘴打ちを促す。
 僕にとって、僕らにとって、繰り返す、ありふれた日常に過ぎない。

 だから、僕はここにいる。
 ここは僕の家だ

 愛の季節だ。
 彼女への愛は、ここでこそ果たされるべきだ。誰にも譲らない。ここも。彼女も。
 ここは僕の家だ

野音のステージ向かって左にある高い木の上に営巣した鳥とかの話」を改訂

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