夜食
「出るって話は聞いてたんですよ」
大企業に嫌気が差したタイミングで、給料よりも破格の遣り甲斐に魅力を感じた小宮山は、誘いに乗って転職した。結果、生きる実感を過労死間近な超時間残業で謳歌していた。
「とはいえ、疲れてはいるもんだから」
しばしば深夜残業中に寝落ちしていたという。
そんな深夜残業の寝落ち中、気配を感じて小宮山は目覚めた。仄かな異臭を感じつつ、時計を見ると午前2時を過ぎていた。
「来たなと思いましたね」
寝方が悪かったのか、多少足に痺れがあった。しかし、動くからにはなにがあっても逃げられるだろう。
そう、小宮山が高をくくったのを見計らってか、眼前に白い人差し指が突き出された。
「いかにも膿んでますって感じで、赤緑に腫れてるから細くはなくて」
一瞬、小宮山が赤緑と白のコントラストに目を奪われた隙に、指は口腔内への侵攻を試みた。
「あっと思って、つい噛んじゃったんですよ」
ブチッと血膿が弾け、小宮山の口腔から盛れ出た腐臭が鼻を突いた。が、
「それが、疲れてる頭には丁度いい甘さで」
今、小宮山にとって一番の楽しみは赤緑な指が現れるか否かだという。深夜残業の5回に1回は現れるらしい。
「超短編の世界-Vol.3− フシギな恋の超短編」未掲載作
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