雪虫

 理由も必要もあるから逃げる。自転車漕いで逃げる。必死で逃げる。逃げる。逃げる。逃げる。
 初冬に唆された雪虫が僕の目に口に鼻に耳に冷気とともに突撃してくる。穴という穴に突撃してくる。僕を逃がさぬよう突撃してくる。
 だから逃げる。自転車で逃げる。雪虫蹴散らし逃げる。自転車漕いで漕いで漕いで漕いで必死で逃げる。逃げる。逃げる。逃げる。
 雪虫は深く厚く僕の回りを飛び回り突撃してくる。穴という穴に突撃してくる。吹雪のように飛び回り、僕を逃がさぬよう突撃してくる。
 それでも僕は逃げる。自転車で逃げる。必死で逃げる。逃げるために漕ぎ続ける。必死に漕ぎ続ける。漕ぎ続ける。漕ぎ続ける。
 袖から裾から衿から隙間という隙間から冷気とともに雪虫は僕に、穴という穴に突撃し、まとわり、纏い、あたりは雪虫色に塗り潰される。
 漕げども漕げども漕げども漕げども逃げているのかわからなくても、漕いで漕いで漕いで漕いで。
 漕いで漕いで漕いで漕いで雪虫を喰らい、漕いで漕いで漕いで漕いで雪虫を糧として、漕ぎ続け漕ぎ続け漕ぎ続け漕ぎ続ける。
 僕は漕いで僕は漕いで僕は漕いで僕は漕ぐために逃げ続け逃げ続け逃げ続け逃げ続け僕は雪虫に突撃し続ける。

第6回ビーケーワン怪談大賞 投稿作を加筆修正

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