MSGP2006 エクストラマッチ
ドリームマッチ 1stweek
3rd Match「音撃の島」

Win ゆっくり大王 6-4 根多加良 Lose


>ゆっくり大王<

 この島にはあらゆる不発弾が流れ着く。飛べ沢君は障害児だった。彼は隔離されたこの島に独りいた。飛べ沢君は不発弾の手触りが大好きだった。人を殺し損ねたくせに間抜けに輝く新しい銀色はとても愉快だったし、爆発も所詮一つの選択肢でしかないといった具合にざらざらと錆びた魚雷だってお気に入りだった。飛べ沢君は病気の子だった。地雷を踏まないようにけんけんぱをして遊んだ。飛べ沢君は運動神経が良かったので地雷を踏まなかったけど、それでも何度か踏んでしまうことがあった。何かを耐え忍ぶようにじっと地面の中に隠れ続ける地雷を飛べ沢君はよく棒で突付いた。ある日ミサイルを山の上から転がして、どちらがふもとまで早く辿り着けるか競走した。ミサイルは途中にあった大木に当たって爆発し、飛べ沢君はすぐ死んだ。まず地雷が吹っ飛んだ。それはバンザーイと聞こえた。さまざまな不発弾は思い思いに爆発した。あの哲学者の魚雷でさえ爆発せずにはおれなかった。飛べ沢君は虐められっ子だった。みんなに嫌われていた。だけど最後まで何も言わなかったし、いつだって静かに暮らした。僕は飛べ沢君をとても男らしいと思う。

>根多加良<

 ある日、宇宙からひらひらと超々音波がこの街に届いてコスモスが狂った。
 コスモスの共食い。コスモスを肥やしにして生きるコスモスは、やがて苗床となってコスモスを咲かす。コスモスの上にコスモスが生えるとコスモスの二乗となる。茎と根はアルミニウムより強度があり、ゴム並みの弾力性を持つ。花びらの色は濃く、ミツは痛いほどの甘さと酸っぱさ、栄養価も豊富。六代前のコスモスの花は平均して三十センチ程度だったのに、今では一メートルを越えるものもざらにある。時々、乾燥させた茎で編んだ家にその花びらをニ、三枚持ち帰り、包まって眠る。最初は香りが強いかもしれないが、深呼吸を三回やれば気にならなくなる。細かい産毛に皮膚を刺激されながら、目を閉じるとこのコスモスたちが小さかったときのことを思い出す。
 夢の中で子供の俺はコスモス畑を歩いている。だが今は花に挟まれているのだ。
 あのときコスモスは小さかったが、そのとき俺も小さかったのだ。

 コスモスは重なって、乗算されて大きくなった。たぶん俺の身体も上から俺が重なって、乗算されて大きくなっているにちがいない。重ねられたゆらぎが孤島となった街を包むよ。

水池亘
2006/09/28(Thu) 05:45
取り急ぎ。何とかなって!

勝者:根多加良

大王作、とても素晴らしいのだけれど、ラストが! 何故かラスト1行が凄い蛇足に思えてしまって、どうにも。ほかにも、文章の書きっぷりで少々引っかかってしまった点がいくつか。でもやっぱり傑作だよなあ。「飛べ沢君」なんて名前、普通思いつかないもの。うん。

根多加作、根多加作としてはおとなしい方かと思いますが、文章がとても綺麗で良いですね。一行目なんか、もう絶品。しかし、こちらも大王作同様ラストの1行に引っ掛かりを感じました。何というか、他からここだけ浮いている印象。

うーんうーんと唸って、より刺激を与えてくれた根多加作に一票を投じます。

1500文字で心臓爆発
2006/09/28(Thu) 04:41
勝者:ゆっくり大王
御免なさい。御免なさい。選評は、のちに・・・・・・・・・・・・のちに、かきます。ほんとうに、かきますので。

いさや
2006/09/28(Thu) 01:50
 U・Bさん好き好き大好き、だから間に合って!!!

勝者:根多加良
 どちらも突飛すぎて突飛すぎて。ぼかぁ困るよ。
 大王作。この語り口で登場する「殺し損ねた」「地雷」「爆発」がひどく不思議な印象で響くから困った困った。そういうやり方もあるのねん、と書き手サイドから感心。なんというか、全貌はぼけているけども芯だけがひしひしと伝わるというか。そんな感じ。
 ねたかん作。起こっていることはきっとトンデモナイ事なハズ。だけどなんでこんなに静かなのさ。だからこそ逆に浮き彫りになっている気がする。少なくとも、ボクはそう思う。
 音は元来振動なわけで、「撃」の弱さを差し引いてもうーん、ここはねたかんに軍配を。

はや♪かつ
2006/09/28(Thu) 00:11
勝者:ゆっくり大王

うーん、タイトルとのフィット感と、あとは根多加作の終盤の評価に迷ったせいです。

大王作も瑕疵がないわけではなくて、「障害者」て言葉だけやっぱり浮いてる気がする。虐められっ子、とか、病気の子、と違って「暫定的に社会的に定義された」感があって同じ水準で咀嚼することができないんです。でもこれくらいのもので、あとはもう。いや、大王様、臣は未熟でございました。何と言うか、反神話? ていうか、飛べ沢君て名前って一体!

根多加作も捨てがたい魅力。「あのときコスモスは小さかったが…」の一節で心は鷲掴みです。でもやはり最終段、やはりここは「島」に持って行くためにムリしている印象を打ち消せませんでした。音撃の「撃」感が薄いのも残念。

空虹桜
2006/09/27(Wed) 21:13
勝者:ゆっくり大王

大王作:
手元にあるCDで、一番「音撃」っぽいのはやっぱり暴力温泉芸者かなぁ〜
で、かけながら読んだのが運の尽き(笑)
不発弾の連爆がノイズの嵐にベストマッチでした。

根多加作:
ホントのとこ、ねたかん作は宇宙規模で爆発してるハズなんだけど、どうもコスモスの字面と秋のイメージのせいか、今、耳に届いてるノイズに邪魔され、たどり着けず。ごめんなさい。

不狼児
2006/09/27(Wed) 19:55
勝者:ゆっくり大王

ホントに突飛対決ですね。さっさと音撃を離れて平然としている淡々としたコスモスの話も好きなのですが、ここは突飛ついでに飛べ沢君。と言うより島の不発弾があまりにもいとおしいので、☆だ。持ってけドロボー!

マンジュ
2006/09/27(Wed) 14:33
勝者:ゆっくり大王
 根多加作、宇宙・コスモスという選択がよいですね。宇宙=コスモス=秩序・調和。なのにカオス、みたいな。でも音撃とするには齟齬があるような気がしてしまう。
 大王作、これはもうたしかに飛べ沢君自体がもう音撃。ビバ☆飛べ沢君。ネームセンスもよいですな。それにしても大王節は読めば読むほど癖になります。吹っ飛んだ地雷のバンザーイという音とかよいなあ。

瀬川潮♭
2006/09/26(Tue) 21:24
勝者:根多加良

 飛べ沢君にすっかりやられていたし芸術は爆発なので圧倒的に逆のジャッジをしていたのですが、
>孤島となった街
 が素晴らしいと感じたので。確かに超超音波の音撃食らってる島だわ。釣鐘の中的状況なのがまた縛られながらするりという感じで心地よく。

hyo+tan
2006/09/25(Mon) 11:49
勝者:ゆっくり大王

大王作、飛べ沢くんの存在が音撃だなあ。と感心してしまった。

根多加作、「六代前のコスモスの花は平均して三十センチ程度だったのに、今では一メートルを越えるものもざらにある。」の件が、ちょいとひっかかる。
花だけの大きさなのか、コスモス全体の草丈なのか。
草丈だとすると、コスモスって草丈1mどころか人の背丈を越えるのも普通にあるから、ぜんぜん「狂ってない」んですよね。
乗算感を出すには5m、10mにならないとな〜。

脳内亭
2006/09/23(Sat) 06:32
 富士山アンプに突っ込んで、ガーンとギター弾いたらさぞ楽しかろう。

勝者:根多加良

 大王作:サイバラぽいなぁと何故かしら
思ったのです。何故だろう。絵本にして読んでみたい感じ。
 根多加さん作:折り重なるコスモス。音撃
かなぁ、と考えると読み切れないのですが、
小さな幸福と切なさを感じました。

 難しいなぁ。うむむ。どちらからも聞こえて
くるのは小さな音なのですけども、静けさも
また一つの爆音でありますので、よりしんと
した印象を受けた根多加さんに一票。

BACK!



空虹桜HP アノマロカリスBANNER
e-mail bacteria@gennari.net