>水池亘<
満月の夜になりそこない達は集まる。
「お久しぶり」「お久しぶり」「お久しぶり」
挨拶もそこそこ、彼らは首を擡げる。輝く月を見遣る。次は誰か。私であってくれれば良いのか、果たして。
数え切れぬほどのなりそこない達を月が確認する。ぐるり。動く。煌く。そして指差す。
照らされる。そのなりそこない。
「ほっほ、私ですか」
「おお」「おお」「おお」
湧き上がる感嘆と賞賛の声。そこに嫉妬は含まれない。いずれ、自分も同様。そう信ずるからこそ。
「研究の成果を見られぬのは残念だが、致し方無い。それでは皆様、お先に」
「後程」「後程」「後程」
彼らに別れの挨拶をする心算は無い。
選ばれしなりそこないが宙に浮かぶ。月の手が伸び彼を丸める。捏ねる。引き伸ばす。そして彼は夜になる。
その様子。他のなりそこないは凝視する。一刻たりとも見逃すまいと目を凝らす。研究の為。自らの力で自らを夜と為す為。
何時の間にか月はもう居ない。なりそこない達も最早互いを確認する事は出来ない。おそらく、自らをすら。
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>不狼児<
汚イゾ。
ソンナトコロデオレヲ見テイルナンテ。
オマエハ一体ダレノ目ダ?
天井に開いた節穴から、わたしはあなたを見張っている。あなたのすべて、一挙手一投足を。わたしの耳が安らかな寝息を聞くまで。
仄暗いピアスの穴から見張っている。あなたが町を歩いていても、耳に穴をあけた女の子がいる限りわたしにはあなたのことが全部わかる。
オレノイナイ空っぽの部屋には、太陽風に凍える夜が身を潜めている。
夜がそのはためく巨大な耳をひるがえすと、漏斗状に抉られたピアスの穴は白く光る満月となって、オレヲ眺メ下シテイル。
ツマンナイTVの前にはダレモイナイ。
オレノ子ヲ孕んだオマエハ――ソシテ膝ニ抱エル我ガ子ノ幻ハ――、かつて見たどの夜よりも美しい。
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