MSGP2006 エクストラマッチ
ドリームマッチ 2ndweek
6th Match「幽」

Lose タカスギシンタロ 2-5 五十嵐彪太 Win


>タカスギシンタロ<

 とすん
 転入生が落ちてきた。太いロープにつながれて、ふうらふうらと揺れている。顔色はつやつやと赤みがかっていてなんだか気味が悪い。そこへいくと級長の青白い顔ときたら。
 級長の顔を見ようとからだをひねると、
 ふるる
 紐がほつれ、わたしはほろほろと回りながら沈んだ。ちょうどみんなの足くらいの高さ。足の指はおもしろいようにどれも五本だ。わたしの足の指はといえば、つめたい霧の渦にひたっている。きいきいと音がして、先生がさびたレバーの操作でわたしを引き上げようとしているのがわかった。
 わたしをもとの高さにもどしたあとも先生はレバーを動かして、そのまま席替えがはじまった。あっちに行ったりこっちに来たり、一度に動けるのはひとりだけ。わたしたちは月光を浴びてゆらゆら踊るにんげんパズルだ。
 ほそそ
 級長がなにか話しかけてきた。夢みたい。一番前の席、級長のとなりだなんて。先生が目を細めながらやってきて、小さなまあるい口をいっぱいに開いた。ぎっしり並んだ小さな歯が見える。先生はすっかり細くなったわたしの糸をそっと噛んだ。糸切り歯の隙間まで、あと少し。

>五十嵐彪太<

 仕切りのある小さな箱に、これまた小さな毛糸玉が二つ入っている。ひとつは茜色の毛糸、もうひとつは藍色の毛糸。
 子猫が箱に近づいて二つの毛糸玉にちょっかいを出すと、それを待っていたかのように二色の毛糸はゆらゆらと立ち昇った。茜と藍は絡み合い、縺れ合い、ほんの一瞬靴下になりかけるが、すぐに解けてへなへなと箱の中に落ちた。
 子猫が箱を覗くと、もはや色は抜け薄汚れた羊毛の僅かなかたまりが二つあるだけ。しばらく小さな羊毛たちをつついていたが、満月に照らされた山の風に呼ばれると子猫は消えるように去った。

不狼児
2006/10/05(Thu) 17:29
またしても悩みますが。文字ネタと言うのは説明されるまで気づきませんでした、ひょーたん作。猫と毛糸のからまりだけで十分に「幽けきもの」を感じられるのに、それが文字に凝っているとなると、シンプルさが際立ってます。
タカスギ作。思い出すだにゾッとする桜の樹の下の毛虫群を髣髴させる、それでいてどこか遠い話が魅力的。
だから勝敗をつけるのは嫌だって言ってるのに……泣けてくる。

勝者:タカスギ

マンジュ
2006/10/05(Thu) 13:11
勝者:五十嵐彪太
 ぎゃ〜何だこの試合は。悩むじゃないか悩むじゃないか。
 一読、タカスギ作の怪しげな転入生に心惹かれてこちらに軍配を挙げていたのですけれども。
 味読すると、幽かという点も字面のイメージもひょーたんさんのが嵌まりすぎるくらい嵌まっている気がして。こんな結果になりました。
 それにしてもベストバウト。どっちも大好きだ。タカスギさん作には個人的に何か賞をあげたいくらいです。

空虹桜
2006/10/04(Wed) 22:37
上質な。
ホント、これぐらい上質な超短編は、たっぷり時間をかけて、ゆったり味わいところ。
恨むべきは締め切り!(笑)

タカスギ作:ひらがな3文字で刻まれるリズムが、「幽」感を底上げしていて、つい、紐を探してしまう。

五十嵐作:なんだかとってもシュレーディンガーの猫。不確定性はまさしく「幽」

全然どっちが勝ったかわかんないや。
えーと、文字ネタが全然わからないので五十嵐彪太の勝ち!

瀬川潮♭
2006/10/04(Wed) 13:42
 これまた判定迷う好対戦で。

勝者:タカスギシンタロ

 席替えも「ほそそ」も楽しいし、片やちょっかいを出されることを待っている毛糸玉も箱の中をのぞく子猫も胸キュンです。
 どちらも素晴らしいので、個人的感覚で。どちらかというと、「幽」は人間サイズ以上という偏見があるのですね。だもので、タイトルとのフィット感につなげてタカスギさん作に。

はや…かつ
2006/10/04(Wed) 02:24
まさに夢のカードですが、判定むずかしー。

勝者:五十嵐彪太

「幽」の字は「かすか」という意味と読みがあります。むしろこちらがメインの字義かと思います。なので、このタイトルで「あやかし」や「もののけ」を中心軸にするとブレるのです。タカスギ作は微妙にそのブレが出てしまったか、と思います。設定、描写、言葉のテクスチャ、最後のなんだかわからないスリル、どれをとっても申し分ないのですがタイトルとだけ微妙に齟齬を起こしている。うーん。一方の五十嵐作は潔い切り上げ方といい、煙にかすむようなつかみどころのなさがまさに「幽」にぴったりかと。お見事。

hyo+tan
2006/10/02(Mon) 22:58
感想のみ

赤と青/茜と藍
紐/毛糸
足/靴下
見事にシンクロしてしまい、シマッタ&ニヤニヤです。

タカスギ作の思春期プレイにドキドキです。


拙作の文字ネタ、もっとありますのよ、脳内亭さん。(笑)
大漢和辞典を引いて、ウラもとりました。
漢和辞典ラウ゛

脳内亭
2006/10/02(Mon) 17:33
 本戦で自分が書いたタイトルという事もあり、すっごい楽しみにしていた対戦です。果たして両作すばらしく僕ホクホク。

勝者:五十嵐彪太

 タカスギさん作:初読では状況が掴みにくかったのだけど、タイトルに返った時に浮かび上がってきて、さすがに上手く使うものだなぁと。「足の指はおもしろいようにどれも五本だ」がもう。素敵。
 ひょーたんさん作:これは文字ネタですよね。「幽」の字が、仕切られた箱と二つの糸であるという。そこから子猫と靴下の発想が生まれたのではと読みましたが、イメージの展開がなめらかで良いと思います。

 じつは両作とも微妙にシンクロしてるよな。本戦での自対戦含め、シンクロ率の高いタイトルなのかなぁ。
うーん迷うなぁ。両作の情景が溶け合って視え、どちらが良いとか言えなくなってくる。
迷った時は短い方。静謐さも手伝って、ひょーたんさんに一票。
ちなみに、私は「幽」の字を反転させてゆらゆら溶かして、(ふふ)、にしてみたのですよと今頃ここでバラしてみる。

いさや
2006/10/01(Sun) 01:07
 勝者:五十嵐彪太

タカスギ作:ええと、状況把握に手間取りました。すみませんすみません。席替えや級長が日本的(?)で時間を経るごとにじわりじわりと効いてきます。こういう不健康な空気がかけるのは流石というか。難しいよなあ。というか、そもそもそういう発想がないもんなあ。へへえ。
ひょーたん作:毛糸の色を赤と青ではなく茜色と藍色としたのが、とても良い味を出していると思います。もし意識的でないとしたら、そのセンスが羨ましい。いや、意識的でも十分羨ましいのだけども。
両作とも、ふうわりふうわりゆうらりゆうらりとして素敵。明日選評していたら勝者が入れ替わっていたかも。それくらい、僅差ということで。

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