>タカスギシンタロ<
とすん
転入生が落ちてきた。太いロープにつながれて、ふうらふうらと揺れている。顔色はつやつやと赤みがかっていてなんだか気味が悪い。そこへいくと級長の青白い顔ときたら。
級長の顔を見ようとからだをひねると、
ふるる
紐がほつれ、わたしはほろほろと回りながら沈んだ。ちょうどみんなの足くらいの高さ。足の指はおもしろいようにどれも五本だ。わたしの足の指はといえば、つめたい霧の渦にひたっている。きいきいと音がして、先生がさびたレバーの操作でわたしを引き上げようとしているのがわかった。
わたしをもとの高さにもどしたあとも先生はレバーを動かして、そのまま席替えがはじまった。あっちに行ったりこっちに来たり、一度に動けるのはひとりだけ。わたしたちは月光を浴びてゆらゆら踊るにんげんパズルだ。
ほそそ
級長がなにか話しかけてきた。夢みたい。一番前の席、級長のとなりだなんて。先生が目を細めながらやってきて、小さなまあるい口をいっぱいに開いた。ぎっしり並んだ小さな歯が見える。先生はすっかり細くなったわたしの糸をそっと噛んだ。糸切り歯の隙間まで、あと少し。
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>五十嵐彪太<
仕切りのある小さな箱に、これまた小さな毛糸玉が二つ入っている。ひとつは茜色の毛糸、もうひとつは藍色の毛糸。
子猫が箱に近づいて二つの毛糸玉にちょっかいを出すと、それを待っていたかのように二色の毛糸はゆらゆらと立ち昇った。茜と藍は絡み合い、縺れ合い、ほんの一瞬靴下になりかけるが、すぐに解けてへなへなと箱の中に落ちた。
子猫が箱を覗くと、もはや色は抜け薄汚れた羊毛の僅かなかたまりが二つあるだけ。しばらく小さな羊毛たちをつついていたが、満月に照らされた山の風に呼ばれると子猫は消えるように去った。
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