MSGP2006 エクストラマッチ
リーグ戦 3rd Match「紅茶泥棒」

Win マンジュ 6−1 白縫いさや Lose


>マンジュ<

 午后三時。青年がとんがり帽子をちょいと曲げ、ぴかぴか銀色に輝く上等の笛を吹くと紅茶たちはテーブルの上のポットからいっせいに飛びだし、アッサムは兎になりセイロンは小鳥になりダージリンは鼠になって青年の笛のもと目指して町なかを一目散に駆けてゆく。
 たぷぴとぽつん。
 青年の横では小さな痩せた子供たちが長い長い列になっていて、木の幹をくり貫いて手ずから作ったさまざまのカップをしっかり両手でくるんで持っている。駆けてきた紅茶たちは子供たちのカップ目掛けて次々飛びこむ、たぷぴとぽつん、飛びこむと同時にきらきら輝くおいしい紅茶に戻ってしまう。
 青年はとんがり帽子をちょいと正し、ポケットからとっときのバタークッキーを取りだして振る舞い、子供たちはみんな笑顔になって、がやがやと愉しいひとときのティータイムを過ごす。

>白縫いさや<

 電車で七駅の小さな町の、隣町と殆ど境目にある美術館に、私は彼に手を牽かれてやってくる。入り口は無人であるが私たちはしっかりと料金を支払う。律儀だから。
 普段、私は分厚い眼鏡を掛けているが「(眼鏡が)ない方が可愛い」と彼が言うので彼と居るときは眼鏡を掛けない。その代わりに彼が私の目になる。私たちは同じ目で同じものを見る。
「18世紀のフランスの貴婦人の絵だよ。シルクのふわふわのドレスで細かいレースがいっぱい。窓辺で籐椅子に座って窓の外を見ている。貴婦人の前には小さな円いテーブルがあって、ティーセットが置いてある。紅茶も手に付かないくらい、戦争から帰ってこない夫を待ち焦がれているんだ」
 彼の説明を聞きながら私たちは毛羽立った緑の絨毯を歩く。沈鬱な空気だね、と囁き合う。
 一時間ばかり歩きとおした後、私たちは美術館の裏の広場の斜面に腰を下ろした。喉が渇いただろう、と彼は陶器のカップに紅茶を注いで渡してくれる。しかし紅茶はすっかり冷えていて、しかも絵の具臭い。また盗んだんだね、と私たちは二人して寝転がり笑い合う。呆れるくらい青い空を白い飛行機雲が横断しているのが、かろうじて見えた。

はや☆かつ
2006/09/08(Fri) 12:11
取り急ぎ。(まだ間に合ってます?)

勝者:マンジュ
文句なしに軽快な物語。ハメルーンの笛吹きをかすかに匂わせる展開すら午後3時の幸せな光の前には吹き飛んでしまう、そういうことも含めて見事。いさや作はどことなくぎこちないか。ぎこちなさが世界観にまで届いていないような感じ。盗むのが紅茶でなくてもよいのもタイトル競作としては厳しいところ。

空虹桜
2006/09/07(Thu) 21:56
勝者:いさや

マンジュ作:エログロの人が名作劇場なんて許さん!(笑)もう、この人はなんでも書ける人になっちゃったんだなぁと。
いさや作:弱視とはいえ「青い空を白い飛行機雲」が見えるかどうかが引っかかるのだけれど、それでも、「また盗んだ」紅茶は、彼とひとつになった私が盗んだもので、表も含めて唯一「泥棒主観の物語」なんだなぁと。

ねたかりょう
2006/09/07(Thu) 21:44
勝ち:マンジュ
 
マンジュ作:
 最初に『午后』を使うことで童話的なイメージを印象付けることに成功していると思う。どうでもいいことかもしれませんがさべあのまの『地球の午后三時』を思いだしました。
いさやん作:前半の美術館と、後半の紅茶泥棒とが別れているのが気になるなあ。いや絵の具で辛うじて繋がってはいるのだけど、回り道にみえる。まだ前半に紅茶泥棒、後半に美術館のほうが面白みがあったかも。 

不狼児
2006/09/07(Thu) 21:01
勝者:マンジュ

いさや作。二人だけでずるい。恋人は皆こんなもの? 羨ましい。ただどうしても言葉での描写が絵画をどうにかできる気がしないので。と言うわけで、僕も紅茶をもらうんだ、と走ってゆきたいマンジュ作に。

2006/09/07(Thu) 13:19
hyo+tanさんの感想、勉強になりましたorz。いさやさんのに対してもマンジュさんのに対しても。
モーフィングに関してはおっしゃるとおりです。確かに過程の詳細はあまり必要ないですよね。作品のバランスもあるし。ホントのトコロは「とぷん」とかの音やらウサギの紅茶の足跡やらに飢えていたとかの個人の好みの話だったりで、実は後悔している書き込みだったのです。うう、ごめんなさいぃぃ。
あ、でも勝敗はしっかりした意思の元なのでこのままで。

hyo+tan
2006/09/07(Thu) 11:59
勝者:マンジュ

うわーうわー悩んだ。
いさやくんの「絵の具臭い紅茶」にもやられたのだけど、やはり女の子がズルいというか。たんに盲目でもよかったのではないか。あ、でもこのズルさが作品のスパイスになってるかも。ぎゃあ。

マンジュさん、「アッサムは兎になりセイロンは小鳥になりダージリンは鼠」ってピッタリすぎ。すばらしい。

♭さんが「モーフィングにこだわって欲しい」というのが何気に興味深い。変身過程を見たいってことですよね?違うかな。
この作品でその描写があったら、私は少し印象が悪くなるかもしれない、と思ってたのですよ。実際どうなんだろ。(ここらへんで思考の限界。)

「紅茶王子」というマンガを読みたくなりました。

いさや
2006/09/04(Mon) 00:32
感想のみで。

お手合わせありがとうございました。
とゆか、ここでハーメルンの笛吹き男ですか。うー。やられた、というのが本音です(笑)。
マンジュ作品にエロ成分が入ってないと落ち着かないのはどういうわけなのでしょうかしょうか。入ってないものも実はけっこうあるんだと頭じゃわかっていても、落ち着かないものは落ち着かないんだ!(マテ) なんだかなあ。

脳内亭
2006/09/02(Sat) 06:06
 傘泥棒なら以前書きましたが。
勝者:マンジュ

マンジュさん作:ほのぼのと可愛らしい作品ですが、この後やっぱり子供たちはどこかへ連れてかれてしまうんでしょうか。わくわく。
いさやさん作:コンタクトにすりゃいいじゃん、と思うも、きっと彼女はわざとやってる、そう思うと腹が立つ。「幸せな二人」は腹が立つ。
と考えてみれば、私はやたらと別れる話ばかり書いている。そんな自分がちょっと嫌になる。Baby please don't go.
すいませんがもう思いっきり個人的な感情によりマンジュさんに一票。可愛いという事の悪意を感じたりもするし。

2006/09/02(Sat) 00:25
勝者、マンジュ。
マンジュ作、種類にこだわるよりモーフィングにこだわって欲しかったというのはさておき、義賊なのがやはり良いと思います。
いさや作、うわあ、惜しい。いい作品なのですが、マリーセレスト号の連想から温かだった方がよかったのではとか思ったので。個人的嗜好が大きく作用して誠に申し訳ないのですが、明快なジャッジをすべく、すぱっと。


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