>マンジュ<
妻を連れ、暖かな国へ向かう船へと乗りこむ。何時の出港ですかと問うと午后一時ですとの返事。まだ少し余裕があったので、私は一度船を降り妻のために水気の多い果物を買ってきた。妻は旨そうに赤やら黄色やらの果実を口に含む。身重の妻に船旅は少し酷だろうかと、色のない唇の端を伝う甘い汁を眺めながら思う。
胎の子は私の子ではない。かといって妻の姦通のあったわけでもない。なぜならば妻の性器は先天的に閉じており、性交渉を行うこと自体不可能なので。月のものもない。言ってみれば妻は清廉な処女であり、少女だった。
神の子だろうと私たちは微笑み合った。妻の笑顔はこの上なく奇麗だった。私は妻を愛している。
暖かな場所へ行かなければならないわと妻は言った。身籠って九箇月目、そろそろ臨月を迎えた頃だ。ああそうだろうねと私は答えた。何となく私にも判っていた。そこには何百年も前から根づいている大木があり、ちょうど人が一人横たわれるだけのうろがあることも。汽笛が鳴り、いよいよ船は港を離れた。神の子が正しい場所で生まれ落ちることを信じ、私たちは固く手を握り合う。
|
|
|
>空虹桜<
ベルトコンベアの上を透明なプラスティックの箱が流れる。両脇に立つ純潔の少女たちが手足に頭、小さな胴を箱に放り込むと、次に控える少女たちが赤い糸でそれらを縫い付ける。
五体満足となった人形は、これまた純潔の少女たちによって、平らな胸を揉みしだかれ、未成熟な陰核を擦り上げられる。その時、人形が表出する感情は、少女たちに自信と嫉妬を与える。不良品より生まれた完成品に対する自信と嫉妬。
少女たちが人形に服を着せると、透明なプラスティックの箱は機械によって密閉される。
これら流れ作業は毎日続き、不良品の少女たちは同じことを繰り返す。ベルトコンベアの向こうを知らない少女たちは、いつか朽ちて、ようやく外を知る。
|
|
|